認知症患者が妻にもう一度恋をした話

認知症の研究をしているときに

ある認知症の男性患者さんが語った

妻にもう一度、恋をしたお話が

とっても素敵だったので、

一部、ご紹介したいと思います。

 

その認知症の患者さんは

70歳を越えたあたりで少しずつ

記憶がぼやっとしてきたり、

なにかやろうと思いついても、

そのやろうとしていたことが思い出せない

 

頑張って思い出そうとしてると

あれ・・・?

今、何してたんだ?

と思い出そうという行動の理由も

わからなくなり、

モヤモヤした気持ちになることが

徐々に増えていったそうです。

 

そして、

少しずつ物忘れが増えていき、

ついには、妻の顔を見た時に、

誰だこの人って思ったそうです。

 

家の中によくわからない人がいる

あの・・・どちらさまでしょうか?

と確認をしたそうです。

 

家族の方々は、

ついにこの日が来てしまったかと

とてもショックを受けつつも、

自分たちの関係性について説明し

あっそうか、家族だったのかと

最初のうちは理解してくれたそうです。

 

さらに認知症が進行し、

いくら説明をしても

家族を家族として認識できなくなったそうです。

 

そこから入院するようになり、

時々奥様がお見舞いに行っていたそうです。

 

お見舞いにいったら、

バスタオルを持っていったり、

お花を取り替えたりして

ほとんど会話もないまま

帰ったそうです。

 

そんな日々がずっと続いていたそうです。

 

ある日、病院の中で

きゃーという悲鳴が鳴り響きました

 

何事だと思った看護師さんたちが

慌てて病室に駆けつけると、

認知症患者の男性が

奥様を後ろから抱きしめていたそうです。

 

奥様は誰から抱きしめられたのが

わからなかったので、

恐怖のあまり声を上げたそうです。

 

なかなか離れようとしない

認知症患者さんを引き剥がし、

個室に連れていき、

なんでこんなことをしたのか

というのを聞いたそうです。

 

 

医師と看護師がなぜ抱きついたのか

確認をすると、

 

『時々来てくれるあの人

初めてみたときから(入院後)

いい女だなぁと思ってたんだけどさ

今日はなんか帰るのが早く感じたんだよ

なんかさみしぃなぁ

もうちょっと一緒にいてぇなぁと思ったらよ

気がついた時には抱きついちまったよ」

 

あの方は○○さん(患者の名前)の奥様ですよと

医師が説明をしたそうです。

 

 

『俺はあんないい女と結婚してたのかい?

そんなことも忘れちまうなんて

認知症って怖いねぇ

そんな風にいわれてもさ

何一つ思い出せないんだよ

 

(このあたりから泣き出しながら)

 

認知症なんて

ボケちまったら楽なもんかと思ったけど

つれえなぁ

 

今、好きだなぁと感じている

この気持ちもさ

明日には忘れちまうのかな?

 

また忘れても

また同じだけ好きになれるかな

 

先生!

これだけは忘れねえ薬ってねえの?

いくらかかってもいいから

その薬くれよ・・・』

 

と涙ながら語ったそうです。

 

記憶を留める薬なんていうのは

ないので日記を書くようにすすめたそうです。

 

認知症ではなくても

そのときの想いや記憶というのは

忘れていくものです。

 

すべてを忘れ、

思い出も記憶もなくなったけれど

妻への愛は

消えていなかったようです。

 

認知症になる前の夫婦仲は

けっして良い方ではなかったそうです。

 

子供が手を離れてからは

ほとんど会話はなく、

あっても、うん、あぁみたいな

そんなやり取りだけだったそうです。

 

医師から奥様にこの話を説明したそうですが、

本当にそんなことを言ってたんですか?

と驚いていたそうです。

 

認知症というのは

個人差がとてもあり、

みんながみんなこうなるわけではありません。

 

取っ組み合いの喧嘩になることもあるでしょう

 

しかし、

長年かけて築いた絆というのは

認知症になっても消えることはないのかな

というのを見せていただきました。

 

特殊な例であっても、

すべての結果には

原因となるなにかがあります。

 

それが分かれば、

同じことを再現することも可能なので、

引き続き研究していきたいと思います。

 

認知症になってしまった代わりに

最愛の相手に

もう一度、恋をさせるだなんて

神様もにくいことをしますね